30.Death/That Which Never Dies
   死/けっして死ぬことのないもの
 あなたの注意を、あなたの内側にあってけっして死ぬことのないもの
を見る方に向けましょう。あなたにはいま、死んでいるもの、あるいは
去ったものを手放す用意ができています。それを呼び戻そうとすること
は忘れましょう。そして、それが過ぎ去っていったことを個人的にとら
えてはいけません。


 仏陀の奇蹟は、イエスのそれとはまったくちがう。
 
 ある女性が仏陀のところに行く
 - 自分の子どもが死んだので、彼女は悲嘆にくれている。
 しかも彼女は未亡人で、もう子どもを持つことはけっしてない。
たったひとりの子どもが死んだのだ。

   それは彼女の愛のすべて、
   彼女の心づかいのすべてだった……。
   
 だが、仏陀はどうしただろう?
  仏陀は笑って彼女に言った。

「町に行って、誰ひとり一度も死んだことのない家から、
芥子種を少し貰ってきなさい。」

 そこで、その女性は町に駆け込み、
 一軒ごとに家を訪ねた。
 どこへ行っても彼らはこう言った。

 「欲しいだけ芥子種をあげることはできるけれど、
 その条件を満たすことはできない
 - 私たちの家ではほんとうにたくさんの人が死んだからね。」
 
 何度も何度もそうなった。
 だが、彼女は望みを捨てなかった。
 「もしかしたら……わかるわけないわ。
  死を知ったことのない家がどこかにあるかもしれない」
  
 そうして彼女は一日中あらゆるところを訪ね歩いた。
 夕方になると、彼女のなかに深い理解が沸き起こってきた。
 
 「死は生の一部だ。それは起こる。
  それは個人的ななにかではない。
  私に起こった個人的な災難ではない。」

  その理解をもって、彼女は仏陀のところに行った。

 彼はたずねた。「芥子種はどこにある?」
 
 彼女は笑った。彼の足もとにひれ伏して言った。

 「私を入信させてください。
 けっして死ぬことのないものを知りたいのです。
 私の子どもが戻るようにとは望みません。
 たとえその子が私に与えられたとしても、
 また死ぬでしょうから。

 自分の内側で、けっして死ぬことのないものを
 知ることができるように、なにか教えてください」


      THE WISDOM OF THE SANDS,Vol.1,pp.103-104