その貴婦人は、クリシュナムルティーを女性にした様な顔立ちだった

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私は彼女の召使いか、弟子の様な立場だった

その女主人の邸宅は、小高い丘の上にすらりと細長く
まるで小さなバベルの塔の様に螺旋階段が複雑に入り組んだ
白壁の立派なものだった

一階の車庫の様なスペースに
その螺旋階段への入り口があり、その入り口と邸宅の壁との間に
僅かな隙間があった

わたしはそこに、女主人に隠してとても小さな野良猫の赤ちゃんを
かくまっていた

なので、女主人にバレはしないかとソワソワしていた

その女主人と一緒に、向かい合ってわたしは邸宅のバルコニーで
昼食をとっていた

っと、そのとき、一階の隠していた子猫が空腹を訴える様に
「にゃあ~~~~ん」と、なが~く伸ばした鳴き声を何度もたてた

「あ、まずい」と私は内心思って動揺した

女主人は、何も驚きもせず、食べかけの食事をおき
そっと自分の口をナプキンでぬぐい、しずしずと一階を見に降りていった

わたしもそそくさと一緒に降りていった


子猫をみつけた女主人は、わたしの勝手な隠し事であることを
すぐに見抜いていた

でも彼女は激することもなく、でも威厳を持って私に言った

  「この子にはこの子の運命というものがあるのよ」

   「さあ、このこを解放してきなさい」

この女主人の静かな言葉に、私は圧倒され、しょんぼりと子猫を
外に連れ出した

邸宅の外は、少し離れれば田園風景も空き地もふんだんにあったが
すぐ手前は、自動車もそこそこ通る車道であった

こんな小さな子をこんな所に放つことは出来ない

あまり別れを惜しむ時間はなかったが、その短い時間の中で
わたしは精一杯のことをして上げたかった

「別れる前に、おまえにせめて名前をつけてあげようね」

「お前の名前は『アサ』がいい!!」

周りを見渡すと、道路にプラスティックの白いハートが落ちていた
その白いハートに「名前はアサ」と念を刻み込み、ヒモだけの
簡単な首輪に、そのハートをくくりつけ、それをその子への餞別にした

いつかどこかで、この子とかならず元気で再会出来る!と信じて・・・・

そして天に向かって、その子を高々と差し上げた

   「すてきなアサだよ!」

   「かわいいアサだよ!」

   「神様、この子を!、この子の運命をお守り下さい!!」

そう祈りを捧げた

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

気が付いたら、51才の日本人のおっさんとして目が醒めた

でも、あまりにも生々しい夢で、夢であったと言うことを私の中の感覚は
強く拒否していた

わたしは、声を上げてベッドで泣いた

あの夢の続きには、戻る必要は無い
夢の中のわたしがそのあとどんな行動をとったのか?
そしてどんなに引き裂かれる様な思いで、その子を置き去りにしていったのか?

小さな身体で、自分よりも背の高い雑草をかいくぐりながら
自分の運命を探し求めて歩いて行く子猫が見える様だった

手に取る様にわかる

気が付いてみれば、その子猫の性別はおろか、
夢の中の自分の性別さえ不明だった

夢の舞台の国や時代さえも、わからなかった

ただ、わたし自身がかなり小さかった気がする

でも、  不思議なことに、今の自分とまったく違和感がない


いまの私は、便利な文明の利器に囲まれ、夢の中の女主人以上に
ある意味で豊かな生活をしているが、でも、不思議なぐらい
夢の中の私と、全然変わらない様な気もした

いや、  置き去りにしていった子猫とも、私はなにもかわらない

この世界は
広大で、巨大だが、

運命の力はそれ以上に
広大で巨大なのだと思う

そう信じていたから、わたしは女主人の言葉に素直に従ったのだ

そう、

女主人自身が、それを信じていたのだ!

だから、その女主人の言葉を、わたしは「正しい!」と直感出来たし
冷たいとも、厳しすぎるとも、感じなかったのだと思う

だからこそ、
その子猫を運命の大海原へ、素直に解き放つことが出来たのだ

私たち人間だって、
今この瞬間も、誰もが例外なく、
運命の大海原に漕ぎ出した小舟なのだ

あの、解き放たれた子猫こそは、わたし自身でもあったのだ

広大な世界n